日本文化学科では、文学や歴史、民俗、宗教など幅広い視点から日本文化を学びます。教室での学びに加え、実際に現地を訪れ、その土地に根付く歴史や文化に触れるフィールドワークも特色の一つです。
その取り組みの一環として開講されている「地域文化研究」では、夏季休業期間を利用した現地調査を実施しています。2026年度は、柴田雅生教授クラスが長崎県、友添太貴准教授クラスが沖縄県を訪問しました。今回は両教員から提供いただいた資料と写真をもとに、「地域文化研究」での学びの様子をご紹介します。
日本文化学科「地域文化研究」とは
「地域文化研究」は、日本文化学科の2年次に開講される専門科目の一つです。学生自らが研究テーマを設定し、現地調査を通して地域文化を学びます。事前学習で得た知識を実際の場所や資料、人々の営みと結び付けながら、日本文化への理解を深めていくことを目的としています。
長崎で学ぶ歴史と信仰の文化 ー 柴田雅生教授クラス
柴田雅生教授クラスは、9月8日から11日までの3泊4日の日程で長崎県を訪問。参加した11人の学生は、「海外との交流」「原爆」「キリシタン」を主なテーマに、長崎に残る歴史や文化を現地でたどりました。
初日の舞台は出島。当時の人々の暮らしや交易品、海外との文化交流の様子を見学しました。二日目にはグラバー園と大浦天主堂へ足を運び、異文化交流の歴史や和洋折衷の建築に注目。続いて上陸した軍艦島では、風化が進む産業遺産を前に、日本の近代化の足跡をたどりました。
三日目は長崎原爆資料館へ。原爆被害の実相に触れた後、潜伏キリシタンの歴史が受け継がれる外海・出津地区を訪れました。外海潜伏キリシタン文化資料館では熱のこもった説明に耳を傾け、今も残る信仰のあり方について考察。さらに、特徴の異なる二つの教会を見比べることで、地域に根付いたキリスト教文化のさまざまな姿に触れました。
最終日には希望者が日本二十六聖人記念館を見学。1597年にキリスト教徒26人が処刑された歴史をたどり、その殉教がヨーロッパ社会に与えた衝撃にも思いを巡らせました。
現地での体験から、それぞれの視点で地域文化を考えるー参加学生のレポートより
研修後の学生のレポートからは、訪問先で得た体験をもとに、それぞれが異なる視点から長崎の歴史や文化を捉えている様子がうかがえます。
原爆について考察した学生からは、現地を訪れたことで、原爆の記憶が資料館の中だけにあるのではなく、現在の街や人々の暮らしの中にも残されていることを実感したという声がありました。また、広島への訪問経験と重ねながら、同じ原子爆弾による被害であっても、それぞれの土地には異なる生活やその後の歩みがあることに目を向けた学生もいます。
潜伏キリシタンの歴史を学んだ学生からは、現在も教会でミサが行われていることを知り、信仰が過去の歴史として残っているだけではなく、地域の中で今も受け継がれていることが印象に残ったという声も。外海の風景と文学作品の舞台を重ね合わせ、それまで過去のものとして捉えていた歴史が、目の前の風景とつながったと振り返る学生もいました。
さらに、出島では、国際交流の拠点というイメージから西洋風の建物を想像していたものの、実際には和風の外観を持つ建物の中に西洋の調度品や生活文化が取り入れられていることに面白さを感じたという声がありました。軍艦島についても、上陸時に抱いた印象をそのまま結論とせず、研修後に改めて島の歴史や現在の姿について考え直した学生もいます。
同じ場所を訪れても、原爆、信仰、文学、建築、文化交流など、学生によって着目する点はさまざま。現地で得た体験を事前学習と結び付け、それぞれの関心から長崎という地域を捉え直す機会となりました。
過去の歴史と現在の暮らし、その両方を感じてほしい ー 柴田雅生教授
今回、長崎を研修先に選んだ背景には、柴田雅生教授自身がかつて長崎で暮らしていたことに加え、端島(軍艦島)を「いずれ上陸できなくなることを見越して、今のうちに学生へ見せたい」という思いがありました。
また、観光地として知られる長崎だからこそ、そのイメージだけではなく、そこで暮らす人々の生活や、過去の歴史が現在にも影響している部分まで扱えることに魅力を感じているといいます。
「私自身の研究内容である日本語の歴史とは直接関わる要素は少ないのですが、キリシタンたちが残した資料は第一級の日本語資料として評価の高いものです。それらが残されてきた歴史的事実の意味を知ることも、日本の伝統的文化の学修には意味があると考え、この地を選びました」
柴田教授はこれまでにも、長野県木曽地方や岩手県遠野地方、長野県栄村秋山郷などをフィールドとしてきました。訪問先を選ぶ際に共通して重視しているのは、現在の人々の暮らしぶりがうかがえることに加えて、「その土地における過去の歴史が今も感じ取れる要素を残していること」だといいます。
今回の研修についても、「日本各地にはさまざまな暮らしと文化が根付いており、長崎についても学生それぞれが肌で感じてほしいと思っていました」と柴田教授。特に、長崎には伝統的なキリスト教信仰が社会の中に残されている部分があるとし、「その信仰の深さと歴史的来歴のさまざまを、現在の街の様子からも感じてもらっていればと思います」と語ります。
実際に、学生たちに強い印象を与えていたのが外海・出津地区でした。現存する二つの教会はいずれも和洋折衷の建築物でありながら、一方は質素な佇まい、もう一方はマリア像や装飾が印象的で、建設の経緯も異なります。学生たちはこうした違いに目を向け、地区ごとの信仰のあり方を示すものとして関心を寄せていたといいます。実際に研修後のレポートでも、外海・出津地区を取り上げた学生がいました。
さらに研修中には、長崎の伝統行事「おくんち」を約1カ月後に控え、学生たちが街中で出し物の練習風景に出くわす場面もありました。歴史的な建造物や資料を訪ねるだけではなく、現在の街に息づく文化や人々の暮らしに触れることも、今回のフィールドワークならではの経験となりました。
文学から沖縄を読み解く ー 友添太貴准教授クラス
友添太貴准教授クラスは、近現代の沖縄文学を手掛かりに、沖縄の歴史や文化について学んでいます。事前学習では文学作品を読み込み、その舞台や作品への理解を深めるための関連施設を検討。実際の訪問先についても、学生自身が作品を解釈したうえで計画・選定しました。
9月1日から4日までの3泊4日で訪れたのは沖縄県。首里城や一中学徒隊資料展示室、嘉数高台公園、中城城跡、佐喜眞美術館、沖縄市戦後文化資料展示館ヒストリート、旧海軍司令部壕などを巡り、文学作品や事前学習で触れてきた沖縄の歴史や文化を、現地の風景や資料と結び付けていきました。
初日は首里城と一中学徒隊資料展示室を訪問。琉球王国の歴史をたどるとともに、沖縄戦で動員された学生たちの記録に触れ、戦時下の沖縄について考えました。二日目には嘉数高台公園や中城城跡へ。地域に残る歴史的遺産を巡りながら、その土地に刻まれた歴史に目を向けます。
三日目は佐喜眞美術館や沖縄市戦後文化資料展示館ヒストリートを訪問。沖縄戦や戦後の歴史、アメリカ文化との関わりなど、現在の沖縄につながる歩みを考察しました。展示資料だけでなく実際の街並みに触れることで、事前に作品や資料から得ていた知識と現地の姿を重ね合わせます。
最終日は旧海軍司令部壕やひめゆりの塔へ。戦争の記憶を今に伝える場所を実際に歩き、歴史的背景を現地の空間や風景から捉えました。作品を読み、学生自身が訪問先を考え、そして現地へ足を運ぶ。文学から出発した学びを、沖縄という地域の歴史や文化、現在の姿へとつなげるフィールドワークとなりました。
沖縄の地で触れた戦争の記憶と、学びの大切さー 日本文化学科3年 田村そら さん
私は以前から日本の戦争の歴史について興味があり、沖縄の文学とともに学ぶことのできる地域文化研究の授業を受講しました。 印象に残った場所は一中学徒隊資料展示室です。案内人の方へ質問をしながら学んだことで、その後に訪れた資料館やひめゆりの塔での学びもより強く、深く心に残りました。
個人では訪れる機会の少ない場所で、展示室、資料館の人々のお話を聞き質問もできたことは、とても貴重な体験だったと思います。
戦争や沖縄について、知っているつもりになっていても現地に行かなければ分からないことがたくさんあり、それを知ることは現代の私たちの糧になるのだと強く思えた授業でした。
「近くて遠い」沖縄を通して、日本文化を捉え直す ー 友添太貴准教授
沖縄を研修先に選んだ理由について、友添太貴准教授は、沖縄が日本国内にありながら、気候や文化に独自性を持ち、近代以降は複雑な歴史的状況に置かれてきた地域であることを挙げます。「国内でありながら距離的にも文化的にも離れている『近くて遠い』沖縄を通して、日本文化を捉え直してみたいと考えた」のが、研修先に選んだ大きな理由でした。
そこには、友添太貴准教授自身の学生時代の経験もつながっています。大学院時代に沖縄文学を専門とする教員の授業を受講したことをきっかけに沖縄文学へ関心を持ち、その後も作品を読み続けてきました。当時の教員とは現在も親交があり、今回の授業でも助言を受けたといいます。
研修では、事前学習で読み込んだ文学作品の舞台や、作品への理解を深めるうえで意義のある関連施設を中心に訪問。さらに特徴的なのは、実際の訪問先を学生自身が作品を解釈したうえで、自発的に計画・選定していることです。
「現地の空気や歴史的背景を直接肌で感じることで、単なる作品の解釈や分析を超えた多角的な理解へ至ることを目指しました。また、文学というフィクションを通すからこそ見えてくる、沖縄の現実や課題について考えてみてほしいと思っていました」と友添太貴准教授。
現地では、関係者との対話を通じて「本を読むだけでは知れない生の声や視点に触れられた」と語る学生の姿が印象に残ったといいます。さらに、地元テレビ局の記者と偶然知り合い、道中をともにするという、予定されていた学修だけでは得られない出会いもありました。
文学作品を読み、自ら訪問先を考え、そして実際にその土地を歩く。作品の中で描かれた沖縄と、そこで暮らす人々の声や現地の空気を行き来しながら考えることが、今回のフィールドワークでの学びにつながりました。