経済学研究科応用経済学専攻では2026年10月8日(木)に税法研究で著名な朝長英樹先生(日本税制研究所代表理事)を講師にお招きし、「税務問題の解決にAIを利用することのメリットとデミリット」をテーマに、租税回避否認の基準と租税法における行政処分取消訴訟についてAIの回答とその分析を事例に織り交ぜながら、研究ワークショップを開催しました。
現在、多種多様な業界でAIの活用が積極的に導入されており、税務の業界においても納税者が税務問題の解決にAIを使い、その回答を確かめるために税理士に質問したり、AIの回答に疑問を持って税理士に質問するケースが増えているようです。朝長先生は「経験の浅い税理士等は、単純な作業で済む業務はAIに代替されていく流れとなっていることに留意する必要がある。ある税理士事務所の所長は、AIがあればスタッフは要らなくなると思うと話しており、AIの普及により、税理士業界も大きく変化せざるを得ない中で、新人税理士は、どのようにして自らの生きる道を切り開いていけばよいのか?をテーマに取り上げたかった」と語りました。
今回のワークショップでは、ChatGPT、Gemini、Claude、Gensparkの4種のAIに対し、国を相手に約178億円の課税処分取り消しを求めた訴訟について、「税法の研究者として」、「税務訴訟を専門とする弁護士として」、「税理士として」という役割を指定し、最高裁判決の内容を示すよう質問しました。其々のAIが生成した回答を分析した結果、AIが出した回答には、かなり大きなばらつきや、判決内容の文言以外の判例評釈・論評・解説等で構成されているなど適切ではないものが存在することも紹介されました。
将来、高度職業人として、税務業界で活躍することを目指す受講生(大学院経済学研究科応用経済学専攻所属9名)は熱心にメモを取りながらこの貴重な講演を聞き入っていました。
最後に、朝長先生より以下2点について助言があり、本ワークショップは終了しました。
朝長英樹先生の助言
人間が「ルール」(法令・通達・判決等)を作り続ける限り、最後に「ジャッジ」(解釈等の適否等と個々の事案の取扱いの適否等の判断)をする役割は人間に残り続けることとなり、この人間に残り続ける「ジャッジ」は、人間による「租税法律主義の実践」と言い換えることができるものである。この「租税法律主義の実践」は、税に携わる者が経験者であろうが新人であろうが、関係なく、同様に行うことができる。
税の業務に携わる者は、今後、遠い過去の情報を学習していないAIが税の領域に普及すればするほど、税の世界においては、遠い過去が人間に残された重要な“フロンティア”となってくる可能性が高いことに早く気付く必要がある。この“フロンティア”は、税に携わる者が経験者であろうが新人であろうが、関係なく、同様に開拓することができる。