明星大学(東京都日野市、学長:冨樫 伸)理工学部の柳川亜季准教授と、長崎大学、鳥取大学、東京科学大学、日本工営株式会社(所属は論文掲載時)の研究者による研究グループは、世界の陸域生態系を対象に、干ばつや多雨などの極端な気象条件に対して、植生がどの程度その状態を維持し、翌年に回復するかを解析しました。
その結果、気温などの気象要因が植生の安定性を予測する主要な要因となる一方、干ばつが深刻になると、草地や低木地などでは、人為的な植物種の増減を表す指標や標高など、気象以外の要因の予測上の重要性が高まることが明らかになりました(添付図参照)。
この結果は、極端な干ばつに対する生態系の脆弱性を評価するには、降水量や気温などの気象情報だけでなく、植物種の構成や地形など、生態系そのものが持つ特性を考慮する必要があることを示しています。
本研究成果は、欧州地球科学連合(EGU)の国際学術誌 Biogeosciences に掲載されました。
発表のポイント
- 深刻・極端な干ばつでは、草地や疎らな低木地などで、植物種の人為的な増減を表す指標や標高といった非気象要因の予測上の重要性が高まった。
- 通常は気温を中心とする気象要因が、生態系の安定性を予測する主要な要因だった。
- 極端な気象下の生態系を予測するには、気象条件だけでなく、生物・地形・土地利用などを統合して評価する必要があることを示した。
- 世界11種類の土地被覆を対象に、干ばつ・多雨の強さごとの植生の安定性を解析した。
研究の背景
しかし、これまでの世界規模の研究では、平均的な気象条件や特定の干ばつ条件を対象としたものが多く、干ばつが軽度から深刻、さらに極端な状態へと強まるにつれて、生態系の安定性に関連する主要な要因そのものが変化するのかについては十分に明らかになっていませんでした。また、生態系の安定性は気象だけではなく、生物多様性、土壌、地形、土地利用など複数の要因によって決まると考えられますが、それらを同時に組み込んで世界規模で比較した研究も限られていました。
そこで本研究では、「極端現象の強さが変わると、生態系の安定性を予測する主要な要因も変わるのではないか」という点に着目しました。
研究方法
干ばつ・湿潤の程度には、降水量と潜在蒸発散量から水分状態を表すSPEI(標準化降水蒸発散指数)を用い、「極端な乾燥」「深刻な乾燥」「中程度の乾燥」「通常」「中程度の湿潤」「深刻な湿潤」「極端な湿潤」の7段階に分類しました。極端な条件は、おおむね20年に1度以下に相当する水準です。さらに、気温、降水量、日射量だけでなく、土壌特性、標高、灌漑、長期的な土地利用履歴、人間活動に伴う植物種の増加・減少・種数を表すモデル指標などを説明変数として組み込みました。
これらの多数の要因と植生の安定性との関係を、機械学習手法LightGBMを用いて解析しました。土地被覆11種類、SPEIの3つの時間スケール、7段階の気象条件、レジスタンス・レジリエンスを組み合わせた462通りのモデルを構築し、さらに条件を変えて合計8,316回のモデル計算を行い、結果の頑健性を確認しました。
主な研究成果
1. 極端な干ばつでは「耐える力」が大きく低下した
干ばつが深刻になるにつれて、多くの地域で植生のレジスタンスが低下しました。
特に影響が顕著だったのは、サハラ以南のアフリカ、ユーラシア大陸内部、北米中央部などの乾燥・半乾燥地域で、草地やサバンナなどに大きな低下がみられました。一方、翌年の回復性を表すレジリエンスの低下は、レジスタンスほど明瞭ではなく、地域による違いが大きいことも分かりました。
2. 通常時は気象条件が重要、極端な干ばつでは予測因子が変化
通常の気象条件では、多くの生態系で気温などの気象条件がレジスタンスやレジリエンスを予測する主要な要因でした。ところが、深刻あるいは極端な干ばつになると、草地や低木地など植生の疎らな生態系では、気象条件の相対的な重要性が低下しました。代わって、人間活動による植物種の増加・減少・種数を表すモデル指標や、標高などが重要な予測因子として選ばれるケースが増加しました。
3. 草地や低木地は、極端な干ばつで特に注意が必要
極端な干ばつ条件では、草地(Grasslands)と開放低木地(Open shrublands)で、人為的な植物種減少を表す指標がレジスタンスの主要な予測因子となりました。農地では、人為的な植物種増加を表す指標が主要な予測因子として選ばれました。この結果から、特に植生の疎らな地域では、強い水ストレスのもとで、植生構造や植物種構成の違いが生態系の安定性と強く関連している可能性が示唆されました。
4. 落葉針葉樹林では、抵抗性と回復性の双方が低かった
落葉針葉樹林では、さまざまな気象条件を通してレジスタンスとレジリエンスが低い傾向がみられ、水文・気候変動に対する感受性が高い可能性が示されました。
研究成果の意義
用語解説
レジスタンス(Resistance:抵抗性)
干ばつなどの気象イベントが発生したときに、植生が平年の状態からどの程度変化せずに維持されるかを示す指標。本研究では衛星観測によるNDVIを用いて評価しました。
レジリエンス(Resilience:回復性)
気象イベントの翌年に、植生がどの程度平年の状態に近づいているかを示す指標。本研究では「回復速度」そのものではなく、翌年の植生活動が平年状態にどれだけ近いかを評価しています。
NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)
人工衛星が観測する赤色光と近赤外光の反射率から計算される、植物の緑の量や活動状態を表す代表的な植生指数です。
SPEI(Standardized Precipitation Evapotranspiration Index:標準化降水蒸発散指数)
降水量と大気の蒸発要求量を考慮して、乾燥・湿潤の程度を表す指標です。
生物多様性関連指標
本研究で用いた植物種の増加・減少・種数に関するデータは、現地で直接観測した植物種数ではなく、既存の全球データから推定されたモデルベースの指標です。そのため、植物種の変化が生態系安定性を直接引き起こしたという因果関係を示すものではありません。
論文情報
論文名
Drivers of ecosystem stability differ with the intensity of extreme climatic events
著者
柳川 亜季(明星大学 理工学部)
上田 莉奈(日本工営株式会社※論文掲載時)
吉川 沙耶花(長崎大学 総合生産科学域)
井芹 慶彦(鳥取大学 国際乾燥地研究教育機構)
鼎 信次郎(東京科学大学 環境・社会理工学院)
掲載誌
Biogeosciences, 23, 4623–4639 (2026)
公開日
2026年7月7日
DOI
10.5194/bg-23-4623-2026
研究助成
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 JP22K05716、JP24K03127
データ公開
研究成果データ:Zenodo 10.5281/zenodo.20384962
NDVI・EVI感度分析データ:Zenodo 10.5281/zenodo.20388921
研究内容に関する問い合わせ先
明星大学 理工学部 准教授
柳川 亜季
E-mail:aki.yanagawa@meisei-u.ac.jp
乾燥から湿潤までの7段階の気象条件に依存した抵抗性の規定する環境要因を示した模式図
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