2026年7月17日、人文学部日本文化学科の授業、「日本文化特講1C:ビジュアル・コミュニケーションの文化史」(担当:向後恵里子教授)の一環として、明星大学資料図書館展示室において、一日限定の貴重書特別展示「刷る・写す・広がる—複製印刷としての本—」を開催しました。展示では、明星大学図書館が所蔵する貴重書を通して、複製印刷によって知識やイメージが広がっていった歴史を紹介しました。
明星大学資料図書館展示室は、本学が所蔵する貴重資料を教育・研究に活用するための展示施設です。今回は講義内容と連動した展示として、普段は書庫で保存されている貴重書を特別公開しました。
複製印刷が支えてきた視覚的コミュニケーションの歴史
私たちは日々、書籍や雑誌、インターネットなどを通じて多くの画像や情報に接しています。その基盤には、同じ図版や情報を複製し、多くの人々へ届ける印刷技術の発展があります。
今回の展示は、講義で扱うビジュアル・コミュニケーションの歴史を、実際の資料を通して学ぶことを目的に企画されました。本という媒体は文字だけでなく図版や挿絵を収めることで、人々の知識や世界観を伝え、共有する重要な役割を果たしてきました。
展示タイトルにもある「刷る・写す・広がる」という言葉には、情報やイメージが複製され、社会へ伝播していく過程への着目が込められています。
東西の貴重書から「広がる知」をたどる
会場では、ハルトマン・シェーデルによる聖書の時代区分にしたがって世界の歴史を記述した年代記『ニュルンベルク年代記』、シェイクスピア戯曲集「ファースト・フォリオ」、『百科全書』、『解体新書』をはじめ、写本やインキュナブラ、版本など、東西の出版文化を代表する貴重書を展示しました。
来場者は、各資料に収められた図版や挿絵、印刷の技法に注目しながら、それぞれの時代において知識やイメージがどのように共有され、人々の理解や文化形成に影響を与えてきたのかについて理解を深めました。
また、展示された資料はいずれも貴重書であり、資料の保存状態に配慮する必要があることから、今回は時間を限定して特別に公開されました。一日限りの展示だからこそ実現した貴重な機会として、実物資料ならではの魅力に触れる場となりました。会場に訪れた学生は、「普段は目にする機会のない本を実際に見ることができ、とても印象に残る経験となりました。特に写本の『平家物語』に惹かれました」と話してくれました。写本は、印刷による複製が今日よのように普及する以前に人の手で書き写されてきた書物であり、一冊ごとに異なる個性を持つ点も大きな魅力です。
「知の継承のありようと可能性を想像するきっかけに」—日本文化学科 向後恵理子教授
向後恵里子教授は、近代日本美術史や視覚文化論を専門に、絵画や書物、印刷物などを通して、人々がどのように知識やイメージを共有してきたのかを研究しています。展示当日、向後教授は来場者一人ひとりに資料を紹介しながら、印刷技術や図版の意味、その時代の人々が何を見て何を伝えようとしたのかを丁寧に解説しました。
その姿からは、資料そのものの価値だけではなく、そこから歴史や文化を読み解いていく研究の面白さが伝わってきました。向後教授の説明に引き込まれ、私たち自身も、資料を読み解く面白さを存分に味わう時間となりました。
今回の展示について、向後教授は次のように話します。
「写真やデジタル画像では得られない、本の質感を感じてほしい」
「今回の企画では、学生のみなさんが本物の書物を実見することを重視しました。写真やデジタル画像では得られない、本の大きさや重量感、紙やインクの質感、彩色の鮮やかさなどを、間近でじっくりと見ることができたのではないでしょうか。
印刷や複製の技法は、歴史的・地理的な背景によって大きく異なります。そうした多様な技法を現物に即して理解することは、ひるがえって書物が知識や情報を地域や時代を越えて広げてきたその歴史を実感することでもあります。
この知のネットワークは、今を生きる私たちの足元にまでつながっています。今回の展示が、貴重書の魅力に触れながら、目の前の一冊を通じて、そうした知の継承のありようと可能性を想像するきっかけになっていれば嬉しく思います。」