「ラジオ体操を通して学ぶ」と聞くと、少し意外に感じる人もいるかもしれません。
子どもの頃から何度も経験し、音楽が流れれば自然と体が動く。ラジオ体操は、それほど私たちの生活に身近な運動です。一方で、腕を上げる、体を反らす、ひねるといった一つひとつの動きにどのような意味があるのか、また、人に伝える立場になった時に、どのように見本を示せばよいのかまで考える機会は、意外と多くありません。
2026年6月2日、授業の一環として、学生を対象とした「ラジオ体操講習会」を実施しました。当日は、将来教員を目指す学生を中心に約100名が参加。身近なラジオ体操を題材に、自分の身体の使い方や動きの意味を確かめながら、将来、子どもたちの前に立つ立場として、動きをどう伝えるか、そして自分の姿がどう見られているかを考える時間となりました。
実施の背景 — 教員を目指す学生にも届けたい機会
今回の講習会は、「体育スポーツ科学実践A」の授業内で実施されたものです。授業を担当する平井孝子先生は、NPO法人全国ラジオ体操連盟の理事でもあり、授業の中でラジオ体操を通して身体の使い方を学ぶ機会を設けています。今回は、ラジオ体操を通して身体の動きに向き合える貴重な機会として、平井先生から「教員を目指す学生さんにもぜひ受講していただきたい」との提案があり、同時間帯に実施されている教育学部の「教育ゼミナール1」の授業の一環としても学生が参加しました。
当日の講師を務めたのは、NHKテレビ体操・ラジオ体操指導者としても活動する鈴木大輔先生と、過去にNHKテレビ・ラジオ体操アシスタントとして活動した横川道乃先生です。鈴木先生は、全国各地でラジオ体操講習会やイベントに携わるほか、大学での教育活動や健康に関する研究にも取り組んでいます。テレビやラジオを通してラジオ体操に携わってきた指導者から直接学べる機会ということもあり、学生からは「実際に聞いたことのある声だ」と驚く声も上がりました。
資格取得だけではない、ラジオ体操を通した学び
この講習会では、参加者が希望すれば「NPO法人全国ラジオ体操連盟公認のラジオ体操指導者資格」を取得することができます。ただし、講習会の目的は、資格取得や正しいラジオ体操を身につけることだけではありません。
鈴木先生が学生たちに伝えたのは、年齢を重ねても身体を動かし続けられる力を身につけることの大切さです。そのための身近で有効な方法の一つが、ラジオ体操です。ラジオ体操の一つひとつの動きについて、どの筋肉を使い、身体のどこをどのように動かしているのかを意識することが重要だと説明がありました。
そのうえで、学生たちはまずペアになり、ラジオ体操の動作が身体のどこを、どのように使っているのかを確認するワークに取り組みました。実際に身体を動かし、互いの動きを確認することで、普段何気なく行っている動作にどのような意味があるのかを、身体感覚として理解していきます。
自分の動きを理解していなければ、人には伝えられない
それぞれの動きが「投げる」「打つ」「蹴る」といったスポーツの基本動作にどのようにつながっているのかについても説明がありました。鈴木先生からは、「人に動きを教えるためには、まず指導する側が自分の身体の動きを理解し、具体的にイメージできることが大切だ」と伝えられました。
自分自身の「ボディーイメージ」を持つことは、体育の授業や部活動などで、子どもたちに動きを伝えるうえでも重要な視点です。中学校教員としての経験を持つ鈴木先生の言葉は、これから教員を目指す学生たちにも、実感を伴って受け止められているようでした。
どう教えるか、そしてどう見られているか
そのことを特に感じたのが、実際にラジオ体操を行う場面です。鈴木先生もアシスタントの方も姿勢が美しく、一つひとつの動きがとても明確でした。腕を伸ばす、背筋を伸ばす、体を大きく使う。その動きは、見ている学生にとって、そのまま「見本」として伝わるものです。
鈴木先生は、教員として子どもたちの前に立つうえで、日頃から自分自身の身体の使い方を意識することの大切さにも触れました。たとえば、運動会の行進を見ていると、そのクラスの担任の先生が普段どのような歩き方を見せているかがわかることがある。今ではあまり使わない言い方かもしれないと前置きしながらも、先生自身の立ち姿や動き方が、子どもたちの動きに影響することを紹介されました。
実際に、学生からも「姿勢がとてもきれいだった」という感想が多く聞かれました。教員として何をどう教えるかだけでなく、自分自身の立ち姿や動きが、子どもたちからどのように見えているのか。学生たちにとって、教える側の姿そのものが見本になることを実感する場面にもなっていました。
身近なラジオ体操に、真剣に向き合う
講習会は、終始笑顔があふれる和やかな雰囲気の中で進みました。一方で、学生たちは一つひとつの動きに手を抜くことなく取り組み、普段何気なく行っているラジオ体操を、改めて見つめ直している様子が印象的でした。
参加した学生からは、「ラジオ体操で授業が成り立つのかなという疑問も少しありましたが、想像以上に充実していました。実際の動きだけでなく、姿勢や発声など学びが多くありました」「ラジオ体操は自然にできるくらい体に染み付いていて、これまで意識したことがありませんでした。それくらい自然なものに、周りの学生たちも真剣に取り組んでいるのが楽しかったです」といった感想が聞かれました。
ラジオ体操は、1928年(昭和3年)に「国民保健体操」として始まり、2028年には100周年を迎えます。時代を超えて親しまれてきた身近な運動の中に、身体を理解し、人に動きを伝えるための学びがある。何気なく行ってきたラジオ体操を通して、大学での学びの魅力の一端をあらためて感じる機会となりました。