2026年3月2日、東京工芸大学中野キャンパスで開催された「映像表現・芸術科学フォーラム2026」において、情報学部・情報学研究科の尼岡利崇教授研究室の学生が口頭発表およびポスター発表を行い、3件すべての発表が表彰されました。いずれの発表も研究内容の独創性に加え、発表の構成や質疑応答での議論が高く評価され、優秀発表賞およびポスター発表賞を受賞しました。
CGや映像表現分野の研究成果を発表する学術フォーラム
「映像表現・芸術科学フォーラム」は、映像情報メディア学会 映像表現&コンピュータグラフィックス研究会、画像電子学会、芸術科学会、画像情報教育振興協会(CG-ARTS)の4団体が共催する学術フォーラムです。
CGや映像表現、アニメーション、ゲームなどデジタルメディア分野の研究者や学生が集まり、最新の研究成果を発表し議論を行います。全国の大学や研究機関から研究発表が集まり、学生研究の発表の場としても重要なフォーラムの一つです。
今回、尼岡研究室からは
・口頭発表:2件
・ポスター発表:1件
の計3件が発表され、すべての発表が表彰されました。
受賞研究紹介
受賞した研究の概要とともに、発表した学生のコメントを紹介します。
物質の振動を応用したエフェクターによる新たな音響表現の探求(優秀発表賞・口頭発表)
三原 拓弥(情報学部4年)、尼岡 利祟
本研究では、物体が持つ振動特性を活用し、新しい音響表現を生み出すエフェクターの可能性を探りました。電子的な音響処理だけでは得られない、物理的な振動による音の変化を音楽表現に取り入れることを目指した研究です。
三原さんのコメント
電子回路やデジタルシグナルプロセッサ(DSP)によって音を変化させるエフェクターは多くありますが、本研究ではそれとは異なる方法として、物体の振動によって音を変化させるエフェクターを制作し、音の表現を広げる可能性を探りました。
特に工夫したのは、物体の振動を使ったフィジカルエフェクターに加えて、Raspberry Piを用いたデジタルエフェクターも制作し、それらを直列につなぎ合わせた点です。物理的な変化とデジタル処理による変化を組み合わせることで、単独では得られない音の表現が可能になるのではないかと考えました。
学会では、他大学の教授や企業の方が多く参加していてとても緊張しましたが、自分では思いつかなかった角度から質問をいただき、新しい視点を得るきっかけになりました。発表後に座長の方から「非常に面白かった」と声をかけていただけたことも印象に残っていて、研究に取り組んできて良かったと感じました。
今後は、音楽制作の中でこれまでとは違ったエフェクトとして活用できる可能性だけでなく、エフェクターそのものを叩くことで音が変化する特性を生かし、新たな演奏手法につなげられないかという点についても考えていきたいと思います。
Botanical Gaze ~ 植物の光屈性に基づくインタラクティブアート ~(優秀発表賞・口頭発表)
佐藤 凜斗(情報学部4年)、尼岡 利祟
本研究は、植物の性質を題材にしたインタラクティブアート作品です。植物が光の方向へと向きを変える「光屈性」という性質をもとに、太陽ではなく人の顔を追いかける人工植物を制作しました。
佐藤さんのコメント
植物のゆっくりとした反応や動きを、人がリアルタイムに可視化・体験できる形へ再構築することをテーマに研究を行いました。中でも本作品では、ひまわりなどに見られる、太陽を追従する特性である「光屈性」を題材に、植物が太陽ではなく人の顔を追従するインタラクティブアートとして表現しています。植物に対する関心や再認識を促し、鑑賞者に新たな感覚体験を生み出すことを目指しました。
工夫した点は大きく二つあります。一つ目は、人工花が傾く際の茎の動きです。光屈性では、光の当たらない側の茎が成長することで植物が曲がりますが、本作品ではその仕組みを取り入れ、傾きたい方向の反対側の茎が伸びる構造にすることで、曲がる原理を機械的に再現しました。二つ目は花の開閉動作で、タンポポなどに見られる開閉運動を参考にしながら、折り紙の提灯の構造をモデルに設計しました。
学会に参加するのは初めてでしたが、さまざまな人が独自の視点や考え方で研究や制作を行っていることを改めて感じました。参加者の中には企業の方もいて、学生とは違う立場からの発表を聞くことができたのも印象的でした。大きなテーマや発見でなくても、自分なりの視点や考え方を見てもらえることに発表の意義があると感じ、良い経験になりました。
この研究を通して、普段は意識されない現象でも、視点や表現の方法を変えることで新しい気づきを生み出せる可能性を感じました。例えば、植物が人の知覚できる速さで動くことで、不気味さや恐怖といった、これまで植物に対して持っていたイメージとは異なる印象が生まれるかもしれません。作品を見た人が、当たり前に存在しているものを別の視点から捉え直し、新しい発見や価値を考えるきっかけになれば嬉しいです。
ポスター発表賞:ぬいもち~ず ~ ぬいぐるみの気持ち・記憶を伝達する楽器の提案 ~(ポスター発表賞)
岸野 愛美(大学院情報学研究科 博士前期課程1年)、尼岡 利祟、横山 真男(情報学部 教授)
本研究は、ぬいぐるみを楽器として用いたインタラクティブ作品です。ぬいぐるみが持つ「記憶」や「個性」を音の違いとして表現し、触れ方によって音色や音高が変化する仕組みを取り入れています。
岸野さんのコメント
ぬいぐるみは持ち主によって持っている記憶が異なり、そのため好きな触られ方や遊ばれ方も違うのではないかと考えています。この作品では、ぬいぐるみごとに、記憶から生まれる好みや個性の違いを、音色や音高の決まり方、発音する場所といった音のふるまいの違いとして表現しています。ぬいぐるみの好きな遊ばれ方をすると、ぬいぐるみが気持ちを音で表してくれるような仕組みです。
また、ぬいぐるみ同士が手をつなぐことで、ぬいぐるみ同士が記憶を交換し、音のふるまいを入れ替えることができます。複数人が一緒に体験することでセッションが生まれ、手をつなぐ動作やセッションを通して、「人‐ぬいぐるみ‐ぬいぐるみ‐人」という関係の中で、体験者とぬいぐるみ、さらに体験者同士がつながる体験を目指しました。ぬいぐるみ遊びを通して音楽を演奏できることも、この作品の面白さだと感じています。
学会で印象に残っているのは、ポスター発表でも実物を持ち込んでデモを行えたことで、作品の内容がとても伝わりやすかったことです。実際に触って遊んでもらいながら説明することで、文章や図だけでは伝わりにくい部分も理解してもらいやすいと感じました。会場では長い時間ずっと触って遊んでくださる方や、「実際に売ってほしい」と言ってくださる方もいて、自分の作品に興味を持ってもらえたことがとても嬉しく、発表してよかったと感じました。
この作品は、人と人とのコミュニケーションを助けるツールとして活かせるのではないかと感じています。もともとこの作品の出発点には、私自身が思春期の頃、父親と面と向かって話すのが難しいと感じていたときでも、ぬいぐるみを通すと話しやすかったという経験がありました。ぬいぐるみのような存在が人と人の間に入ることで、会話のきっかけを作ったり、気持ちを伝えやすくしたりできるのではないかと考えています。実際にポスター発表でも、作品やぬいぐるみがその場にあることで、会話が生まれやすく、話しやすい雰囲気になると感じました。
指導教員コメント
情報学部 尼岡 利崇 教授
映像表現・芸術科学フォーラム2026において、三原拓弥さん、佐藤凜斗さん、岸野愛美さんが発表した作品が高く評価され、受賞に至りました。
三原さんは、物質の振動という現象に独自の視点を与え、実世界の現象と情報技術を結び付けた実験的な音響表現を提示しました。佐藤さんは、植物の光屈性に着目し、その自然現象をモチーフに、情報技術を駆使した表現世界をインタラクティブ作品として構築しました。岸野さんは、ぬいぐるみの「触覚」や「ぬくもり」といった感覚的要素と「記憶」や「個性」といったナラティブ的要素を取り入れ、複数人でインタラクション可能な楽器を制作し、音によるコミュニケーションの可能性を示しました。
これら作品や研究に共通する特徴は、いずれも技術そのものではなく、人間の感性や体験に着目し、新しい価値を提案している点にあります。機能性や性能といった技術的側面で評価されることの多い情報学分野において、本受賞は、人の感覚や感性に基づく表現が高く評価されたものとして、大きな意義を持つ成果といえます。
このような新しい価値は、学生一人ひとりの独自の視点や発想を出発点に、試行錯誤を重ねながら作品や研究として形にできた成果です。3名の受賞を心よりお祝いするとともに、制作や研究の過程で培ったトライアンドエラーの精神、新しい道を切り開いていく力を忘れず、今後の活躍を期待しています。