2026年1月22日、MEISEI HUBにて「明星SATOYAMAプロジェクト報告会」を開催しました。
2022年から約4年間にわたり進められてきた本プロジェクトについて、携わる教員・学生それぞれの取り組みや研究成果が発表されました。
里山や地域をテーマにしたフィールドワーク、授業実践、学生の研究発表などが次々と紹介され、分野の異なる多様な取り組みが一つのプロジェクトのもとに集い、里山を軸にさまざまな専門性が交差してきた様子が伝わってきました。
ワンキャンパスの総合大学である明星大学だからこそ、こうした分野横断の動きと地域との関係性が重なり合い、一つのプロジェクトとして育っていったことを感じさせる、とても暖かな時間となりました。
「明星SATOYAMAプロジェクト」とは
「明星SATOYAMAプロジェクト」は、明星大学が持つ環境資源と総合大学としての専門性を活かし、キャンパスに息づく里山環境を教育・研究・地域連携のフィールドとして活用する全学的な取り組みとして、2022年度から2025年度にかけて推進されてきました。
本プロジェクトでは、大学のキャンパスやその周辺に広がる里山・緑地・ハイキングコースを舞台に、学生・教職員・地域住民・他大学・企業など、多様な立場・専門性をもつ人々が関わり合いながら活動を展開してきました。単に自然環境を守ることを目的とするのではなく、多様な自然・歴史・暮らしの現場そのものを教材・実践の場として捉え、「現場に立ち、見て、聞き、考える」ことを軸に、学部・分野を越えた学びと協働を育んできたことが本プロジェクトの大きな特長です。
SATOYAMAを起点に、専門性が交差するプロジェクトへ
報告会の冒頭では、「明星SATOYAMAプロジェクト」の発起人である理工学部 総合理工学科の柳川亜季准教授が登壇し、本プロジェクトに関わってきた教職員、学生、地域関係者への感謝の言葉とともに、4年間の歩みを振り返りました。
柳川准教授は挨拶の中で、「多くの人が関わってくれたからこそ、ここまで続けてくることができた」と述べ、本プロジェクトが特定の分野や個人の取り組みではなく、さまざまな専門性や立場が重なり合う中で育ってきたことに触れました。
また、明星SATOYAMAプロジェクトは単に自然環境を守る活動ではなく、里山を軸に、人と人、専門と専門がつながっていく過程そのものを大切にしてきた取り組みであったことが語られ、本プロジェクトの本質が改めて共有されました。
その挨拶に続き、各教員とゼミ・研究室に所属する学生による発表が行われました。自然調査や地域研究にとどまらず、デザイン、建築、工学へと広がる実践が紹介され、里山というテーマが、これほど多様な問いと実践へと発展していたことに、あらためて驚かされました。
発表内容について
自然の可視化・緑地整備
理工学部 総合理工学科 柳川 亜季 准教授
挨拶に続いて行われた柳川准教授の発表では、「自然の可視化・緑地整備」をテーマに、キャンパス内外の自然環境に向き合ってきた取り組みが紹介されました。
学生とともに現地に入り、緑地の状態を調査・記録し、整理していく中で、これまで当たり前のように存在していた自然を「見える化」し、学びの対象として捉え直してきた過程が語られました。
単に調べるだけでなく、緑地の整備にも取り組みながら、自然と人との関係を現場で問い直してきたことも報告されました。
また発表では、学内の昆虫を研究する学生サークル「けもの道探検隊」の活動についても紹介がありました。会場では昆虫の標本とともに学生が登壇し、キャンパスに生息する生き物を調べてきた取り組みや、自分たちの視点で自然に向き合ってきた活動が語られました。
「大学の足元にある自然を、どう学びにつなげていくか」という問いに、教員と学生、さらにはサークルの活動も重なりながら向き合ってきた実践は、本プロジェクトの出発点として位置づけられる内容でした。
程久保地域のくらしと歴史
教育学部 教育学科 高橋 珠洲彦 准教授
高橋准教授からは、程久保地域をフィールドに進めてきた調査について報告がありました。
発表では、京王線沿線や周辺のハイキングコースに着目し、古い資料や写真と現在の風景を照らし合わせながら、道の成り立ちや周辺環境の変化をたどってきたことが紹介されました。
学生とともに実際に地域を歩くだけでなく、長く住んでいる地域住民へのヒアリングも行い、記録や地図だけでは分からない当時の様子や記憶を掘り起こしてきた点も、本発表の大きな特徴です。
発表では、当時の写真と現在の写真を並べて比較する場面もあり、里山が「自然」として存在しているだけでなく、「移動」「生活」「学び」と結びつきながら姿を変えてきたことが、非常に具体的に示されていました。
緑地図フィールドワーク
デザイン学部 デザイン学科 萩原 修 教授
萩原教授からは、「緑地図フィールドワーク」の取り組みとともに、自身の教育やデザインに対する考え方の変化について語られました。
発表の中で萩原教授は、明星SATOYAMAプロジェクトを通して柳川准教授と出会ったことを大きな転機として振り返りました。自然やフィールドに向き合う実践を重ねる中で、「人のためのデザイン」に加え、「自然との関係の中でデザインを考える」という視点へと、自身のデザイン観が変わってきたといいます。その言葉からは、本プロジェクトが研究や活動にとどまらず、教員自身の価値観にも影響を与えてきたことが伝わってきました。
あわせて、現在取り組んでいる緑地図フィールドワークについても紹介があり、学生とともに地域を歩き、気づきを記録しながら学びを深めていることが報告されました。
里山の魅力を伝える方法を考える
デザイン学部 デザイン学科 本間 由佳 准教授
本間准教授からは、「里山の魅力を伝える方法を考える」をテーマに進めてきた取り組みについて発表がありました。
発表の中で紹介されたのが、きのこが好きな学生の関心を出発点に制作されたボードゲームです。里山に生えるきのこに着目し、その特徴や面白さを、遊びながら知ることができる形に落とし込んだ取り組みで、学生自身の「好き」という気持ちから発想が広がっていったプロセスが語られました。
さらにこの取り組みは、ボードゲームの制作にとどまらず、きのこをテーマにしたワークショップの実施へと発展していったことも紹介されました。
学生一人の興味から生まれたアイデアが人と人をつなぐ場へと広がっていった過程は、里山を起点に学びと実践が連鎖していくSATOYAMAプロジェクトらしい事例として印象的でした。
キャンパスへの提案プロジェクト
建築学部 建築学科 村上 晶子 教授
村上教授の発表では、研究室に所属する学部生と大学院生たちが「キャンパスへの提案プロジェクト」として進めてきた取り組みについて報告が行われました。
大学内のスペースに新たな場をつくる構想をまとめ、その提案を理事長に直接届けたことを紹介。キャンパスという日常の空間を対象に、「大学の中にどんな場があればよいのか」を自分たち自身で考え、かたちにしていったプロセスが語られました。
あわせて紹介されたのが、活動の中で実施したアンケート結果です。そこからは、「もっと他学部の学生と交流したい」「学部を越えて集まれるスペースがほしい」という学生たちの声が多く寄せられていたことが明らかになり、ワンキャンパスで学ぶ明星大学の魅力を、学生自身が強く実感していることが改めて浮かび上がりました。
一見すると里山から離れたテーマにも見えるこの発表ですが、人と人が出会い、関係が生まれる場をキャンパスにつくろうとする試みは、SATOYAMAプロジェクトが自然を起点に広がってきた動きを、大学の内部へとつなげていく実践でもあり、そのような視点からも、非常に興味深い発表となりました。
落ち葉を使った燃料開発
理工学部 総合理工学科 齊藤 剛 教授
齊藤教授からは、「落ち葉を使った燃料開発」をテーマに進めてきた研究と実践について発表がありました。
発表では、キャンパスや周辺の里山で集めた落ち葉を活用し、燃料として利用する試みが紹介されました。身近に存在する自然資源に着目し、それをエネルギーとして循環させていくプロセスを、学生とともに探ってきたことが語られました。
なかでも印象的だったのが、開発した燃料を実際に使用する取り組みです。単なる実験にとどまらず、燃焼試験専用のピザ窯を設置し、落ち葉由来の燃料でピザを焼く実践へと展開してきたことが紹介されました。
研究として進められてきた燃料開発は、報告会後に行われた学内の資源を使った燃焼試験専用ピザ窯によるピザ試食会へとつながっていきました。落ち葉から生まれた燃料が実際に火を起こし、人が集い、食を囲む場へと結びついていく光景は、自然・科学・人の営みが重なり合うSATOYAMAプロジェクトの姿を象徴するひとときとなりました。
SATOYAMAの想いは、これからも形を変えて続いていく
報告会の終盤には、落合一泰 明星学苑理事長、冨樫伸 明星大学学長から挨拶があり、「明星SATOYAMAプロジェクト」の4年間を振り返るとともに、今後への期待が語られました。
落合理事長は、本プロジェクトについて「最初からゴールを決めて進めるのではなく、つくりながら育ってきたプロジェクトだった」と振り返り、学部や立場を越えて人が集まり、自然発生的に広がっていった点に大きな価値があったことに触れました。そのうえで、「ぜひ今後も第二弾、第三弾へとつながっていくことを期待している」と述べました。
冨樫学長もまた、本プロジェクトが単なる一過性の取り組みではなく、大学の教育・研究・地域連携の在り方そのものに多くの示唆を与えてきたことに言及しました。そして、「今年度でプロジェクトは一区切りとなるが、ここで生まれたつながりや姿勢は、今後もさまざまな形で受け継がれていくはずだ」と述べ、SATOYAMAの実践が明星大学のこれからに広がっていくことへの期待を示しました。
4年間の取り組みに一度区切りはつくものの、「明星SATOYAMAプロジェクト」が育んできたのは、成果物以上に、人と人、専門と専門、大学と地域がつながっていく土壌そのものでした。両氏の言葉からは、その土壌がこれからも明星大学の中で息づいていくことが、強く感じられました。
学内に現れたピザ窯—報告会後の試食会
報告会の終了後には、齊藤剛研究室の学生たちが制作したピザ窯を使ったピザ試食会が行われました。
このピザ窯は、落ち葉由来の燃料を用いた燃焼実験の一環として制作されたもので、2025年11月に開催された星友祭でも登場し、大きな注目を集めた取り組みです。燃焼工学の知見をもとに設計されたピザ窯は火力が強く、この日も次々とピザが焼き上がっていきました。
突然現れたピザ窯に、学生や教職員からは驚きの声も上がり、焼き上がったピザを手に、自然と人が集まる光景が生まれていました。笑顔でピザを頬張りながら談笑する姿も多く見られ、和やかな雰囲気に包まれていました。その光景は、明星SATOYAMAプロジェクトが4年間かけて育んできた世界観を、体感的に伝える時間となっていました。
報告会を終えてー明星SATOYAMAプロジェクトが残したもの
報告会で紹介された各取り組みは、いずれも専門性が生かされた興味深い内容でした。しかしそれ以上に印象に残ったのは、明星大学そのものの魅力でした。
例えば齊藤剛研究室のピザ窯の取り組みでは、以前製作したピザ窯が崩れてしまったことがあったといいます。その際、構造工学を専門とする建築学部の教員に「なぜ崩れてしまったのか」を相談しに行き、専門的な視点から助言を受けたことが紹介されていました。こうしたやり取りが自然に生まれるのは、ワンキャンパスに9学部1学環が集まる明星大学ならではの環境があってこそだと感じます。
各学部がそれぞれの専門性を生かし、個性を発揮していくことは大学の大きな魅力です。一方で、報告会の会場では、学部や専門を越えて教員や学生が楽しそうに言葉を交わす姿が多く見られました。その光景自体が、このプロジェクトの価値を物語っているように思えました。
また、プロジェクトに参加していた4年生の学生に話を聞くと、「この大学だからこそ、ここまでいろいろな経験をさせてもらった。本当に明星大学に入ってよかった」という言葉が返ってきました。その一言がとても印象的で、とても胸が熱くなりました。
明星SATOYAMAプロジェクトは、数多くの成果や実践を生み出してきました。同時にこの4年間で育まれてきたのは、人と人のつながりや、学びに向かう姿勢といった、目には見えにくいけれど確かに残っていくもの、そして今後に広がっていくものがあったのではないでしょうか。報告会の温かな雰囲気の中で、そんな「無形の成果」を強く感じる一日となりました。