この度、心理相談センターの小林加奈実習指導員が、2025年10月4日から7日にかけてドイツ・ベルリンで開催された「欧州消化器病週間(United European Gastroenterology Week: UEG Week 2025)」にて、その優れた研究発表が評価され、Best Abstract Presentation Prizeを受賞いたしました(心理学部心理学科 藤井靖教授との共同受賞)。
本研究は、小林氏が博士学位論文研究として取り組んできた研究の一部であり、過敏性腸症候群(IBS)に苦しむ人々を支援する新たな治療アプローチの可能性を示すものです。
研究の概要
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や腹部の不快感、便通異常などを主症状とする消化管の機能障害です。その治療法の一つとして、症状の改善やQOL(生活の質)の向上に長期的な科学的効果が示されている認知行動療法(CBT)があります。しかし、CBTは公認心理師や臨床心理士など専門家との面談が必要であるため、時間的・金銭的コストが高いことや、日本国内で提供できる医療機関が限られているという課題がありました。
本研究では、これらの課題を解決するため、スマートフォンで手軽にCBTを実践できるアプリケーションを開発し、その有効性を検証することを目的としました。
結果、アプリを使用したグループは、使用しなかったグループに比べてIBSの症状が改善されることが示されました。さらに、症状の改善効果は介入終了後も持続し、QOL(生活の質)や、IBSの維持・悪化に関わるとされる内臓感覚への不安、痛みに対する破局的な考え方も改善する可能性が明らかになりました。
研究成果の社会的意義
スマートフォンアプリという電子媒体を用いることで、利用者は時間や場所を選ばず、自身のペースで専門的な心理療法に取り組むことが可能になります。これは、多忙な生活を送る人々や、近隣に専門医療機関がない地域の患者さんにとって、大きなメリットとなり得ます。
本研究で有効性が示されたデジタルアプローチは、CBTへのアクセスに関する従来の障壁を取り払い、より多くの人々が適切なケアを受けられる社会の実現に貢献することが期待されます。
なお、本研究成果は2022年度明星大学重点支援研究費および文部科学省・科学研究費補助金(基盤研究C・過敏性腸症候群に対する携帯情報端末を用いたビデオ認知行動療法プログラムは有効か?)(いずれも研究代表者は藤井靖教授)の支援を受け行われた研究の一部です。