「航空自衛隊音楽隊」に所属する本学出身プロドラマー、佐藤凱斗さんにインタビュー

私がプロの世界に入るまで

2020/09/02 公開

明星大学

 音楽のスペシャリストたちが集まる航空自衛隊音楽隊。高度な演奏技術や知識を備える多くの入隊希望者が門を叩くも、入隊できるのはその中の一握りだけ。即戦力となり得るだけの実力が求められる航空自衛隊音楽隊に、総合大学である本学出身の佐藤凱斗(さとうかいと)さんは入隊した。今回は明星大学からプロ奏者へと異色のキャリアを歩む佐藤さんに音楽隊を目指したきっかけや学生時代の経験についてインタビューしました。

ー航空自衛隊音楽隊について教えてください

 航空自衛隊音楽隊には、主に3つの任務があります。まず、最も重要な任務として、国家行事における式典・儀式での演奏があります。次に、「士気振作(しきしんさく)」と呼ばれる隊員の士気を高めるための演奏。最後に、地方での演奏会やCD録音などの広報活動を行っており、数ある任務の中でも、国民の皆さんから特にイメージされるのが、この広報活動です。
 航空自衛隊音楽隊には、クラリネットやホルン、打楽器など様々な楽器演奏者がいますが、その中でも私はドラム演奏者として活動しています。

松島基地で行われた東京オリンピック聖火到着式「式前演奏写真」

航空自衛隊音楽隊による演奏

ー航空自衛隊音楽隊を受験したきっかけをお聞かせください

 学生時代に所属していた「明星大学学友会吹奏楽団」の活動中に、外部講師でもあった現役音楽隊の方から「航空自衛隊で新しくドラムの採用枠を設けるから受けてみないか」とお誘いをいただいたことがきっかけです。
 もともと私は5歳から本格的にドラムを始め、中学1年生の頃には、プロになりたいと考えていました。ですが、当時は漠然とコンサートツアーなどに帯同するドラマーになろうかなと考えていた自分にとって、音楽隊という世界は耳慣れないものであると同時に、自分の知らなかったプロ奏者の世界があることに興味を惹かれ、受験を決意しました。

インタビューを受ける佐藤さん

航空自衛隊の制服に身を包み、明るくインタビューに応じる佐藤さん

ー音楽隊を受験した当時の思い出をお聞かせください

 音楽隊の受験期間中は、「不安」の一言でした。というのも、航空自衛隊音楽隊に入隊するためには、前提として自衛官採用試験に合格しなければならないため、筆記・面接試験に向けてひたすら勉強の日々。筆記試験の対策をするために、実家から高校時代の教材を丸ごと送ってもらい、片っ端から問題を解いたこともありましたが、今思うと大変だった一方で、充実した期間でもあったと思います。 
 合格した後は、いよいよ音楽隊が主催する職種説明会に参加し、実技体験(独奏)を行います。指定曲と数か月の準備期間が与えられ、楽曲の中でどのように自分を表現しようか師匠に相談しながら、演奏技術の緻密さを追求しました。

ー音楽隊に入隊できる人は少数だと聞きますが、入隊にあたり学生時代のどのような経験が生かされたと思いますか

 たしかに音楽隊への入隊を目指す人はとても多く、誰もが腕に覚えがある人たちばかりなので、実技中の緊張感は今でも汗をかくほどよく覚えています。それでも実技中は「自分らしさ」を出し切れたと思っており、演奏会やライブなど学生時代に踏んだ場数の多さが、本番に強い自分へと成長させてくれたのだと思います。

ー学生時代の経験が生かされた試験だったのですね。そんな今の佐藤さんが形成された学生時代の音楽活動について教えてください

 明星大学に入学した当初は、とにかくドラムが練習できる場所が欲しくて、軽音楽部と吹奏楽団のどちらに所属しようか悩みましたが、より多くのジャンルが練習できる吹奏楽団への入団を決めました。
 吹奏楽団に入団してまず感じたことは、演奏活動に対する柔軟性の高さでした。メンバーは自分たちで活動方針や内容を考え、顧問と吟味しながら活動を展開していきます。自主性を尊重しながら、ある意味「自由」に活動できることが明星大学学友会吹奏楽団の面白みなのだと思います。
 例えば私の場合、吹奏楽団に所属しながらも、1つのコミュニティに縛られることなく、大学内外の様々な人たちと幅広く演奏活動を行なうことで自分のスキルを磨いていました。武者修行のように多方面で演奏していく中で、チャンスは待っていれば勝手に来るものではなく、自分で色々な場に身を投じるからこそ、新しい経験ができて、表現の幅が広がるのだと気づくことができました。
 何より、このようなフレキシブルな活動ができたのは、お互いをリスペクトする吹奏楽団の環境のおかげです。基本私が吹奏楽団の活動に参加するのは、星友祭や定期演奏会の時だけでしたが、それでも彼らは私の活動を理解してくれたうえで、ドラムのメンバーが必要な時には、私に声をかけてくれました。

学外グループでドラム演奏する佐藤さんの画像

学外グループでバンド演奏を行った時の一枚

ー学生時代の1番の思い出を教えてください

 多方面で演奏してきた学生時代ですが、それでも、吹奏楽団の仲間たちと作り上げる「定期演奏会」が1番楽しかったです。演奏会は、一人ひとりが奏でる音を、指揮者がタクトを振ることで一つの音楽へと表現していく場ですが、演奏会当日までの過程の中でより良い演奏にするにはどうすべきかを、メンバー間で何度も話し合うことがとても好きでした。演奏会が終わるころには、自分の成長を確かめられる機会になり、今年はこれができるようになったから、来年はこれを挑戦してみようと、私にとって今の自分のパラメータを確認できる場所でもありました。

定期演奏会の様子

定期演奏会リハーサルの様子

ー学生時代を振り返ってみて思うことを教えてください

 学生生活では、人との出会いの大切さを学びました。大学生は、その人のこれまでの人生の中で、最も多くの人と出会える期間だと思います。自分から一歩踏み出すことで、誰かと出会えて、そこからまた新しい縁につながるため、人としても、演奏家としても幅を広げられた期間でした。音楽隊に入隊できたのも、出会いの積み重ねがあったからこそだと思っています。これからも、その時々の出会いを大切にしながら音楽隊の任務に臨みたいです。

定期演奏会での全体写真

学生時代に佐藤さんが参加した定期演奏会

ー最後に今後の意気込みをお聞かせください

 ここからがスタートですので、音楽隊の舞台で活躍できるようにもっと演奏技術を磨く必要があります。常に上昇志向を忘れずに、国家行事の場もさることながら、国民の皆様に喜んでいただけるような演奏をお届けできるように、一つ一つの任務にまい進していきたいです。

佐藤凱斗さんのプロフィール

 1999年生まれ、北海道出身。幼少の頃からドラムを始める。中学生時代には吹奏楽部の部長を務め、初出場の全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞。明星大学在学時は、明星大学学友会吹奏楽団に所属し、パーカッションを担当。「平成31年度航空自衛隊音楽隊 職種説明会」において、新たに新設されたドラム枠に参加。採用予定者1人という狭き門を突破し、現在は西部航空方面隊下、西部航空音楽隊に配属され、航空自衛隊春日基地(福岡県春日市)で活動しています。