学生の未来をつくる

「体験教育」を具現化した「自立と体験1」

2019/11/14 公開

明星大学

 「自立と体験1」は、明星大学の教育方針「実践躬行の体験教育」を具現化した少人数クラスの初年次教育科目で、明星大学を象徴する授業科目の一つだ。2019年7月15日には、初年次教育学会「教育実践賞」第1回最優秀賞を受賞した。今回は、「自立と体験1」の立ち上げから携わっている、明星教育センター教員の鈴木浩子常勤教授と、センター事務室の御厨まり子課長に話を聞いた。

「自立と体験1」とは?

 「自立と体験1」は、1年次の全学共通の必修科目として2010年度にスタートした。創立者である児玉九十先生が提唱した「体験教育」を今の時代に合わせて形にした実践型プログラムだ。

 入学生を大学全体で迎え入れ、大学に適応できるよう、様々な観点から授業が行われる。大学生活を通して、学生が自信や目標を見つけることが授業のねらいだ。そして、この「自立と体験1」には他の授業にはない4つの特徴がある。

 1つ目が、「学部・学科を超えてクラス編成される」ことだ。授業を担当する教員も、各学科等から選出されて担当する。自分の学部以外の学生や教員と交流することで視野が広がったという声も多い。異なる考えや価値観の相手に興味を持つ心や、多様な人と交流することに対する関心を磨く。

 2つ目が、「少人数制で行われるアクティブラーニング」であること。ただ授業を聞くだけではなく、実際に個人やグループで体験し、考えることで、小さな成功体験を積み重ねることができる。

 3つ目が、「自立と体験1」を受講した有志の学生がスチューデントアシスタント(以下SA)となり、授業のサポートをすることだ。SAは教員よりも学生に近い立場で学生のサポートを行う。SAの上級生が下級生に良い影響を与え、同時にSA自身もこの経験を通して成長する機会になる。

 4つ目が、「大学の歴史を知る」ことだ。学生たちは、「自立と体験1」は大学の教育方針「体験教育」が体現された授業であり、各学部の授業もそのビジョンの元に作られていることを学ぶ。自分たちがどのような考え方の教育を受けて人間として成長するのかを、入学直後に知ることには意味がある。

 「自立と体験」は、初年次で終わらず2年生・3年生の授業に続いていく。1年後期の「自立と体験2」では学部・学科の特色を活かし社会の課題にふれる。2年次以降は自由科目の「自立と体験3A・3B」で、問題解決やプレゼンテーション、ジョブインタビューなど、社会で必要とされる汎用的能力を身につける。

 この「自立と体験1」では、“体験したら振り返る”、いわゆるPDCAの考え方の定着を促す。授業を通してPDCAという考え方を理解し、それを部活やサークルなど学内の様々な活動や、アルバイトなど学外の体験に生かして欲しいと、鈴木先生は語る。

改善と検証を繰り返し、常に現状を打破する

 明星大学を象徴する看板授業の一つとなった「自立と体験1」だが、ここまでの道のりは決して簡単ではない。

 「自立と体験1」の授業ができる前のキャンパスは、講義を受けてすぐ帰ってしまう学生も多く、今のように活気あふれた大学ではなかった。離籍する学生も少なくなかったそうだ。

 せっかく明星大学に入学したのだから、卒業まで充実したキャンパスライフを送って欲しいという思いもあり、初年次教育を検討する委員会がつくられた。この委員会では「自立と体験1」を立ち上げるべく、早くから初年次教育を実践している他大学のプログラムについてヒアリングしたり、教育プログラムのトレンドを教育関係者に聞くなど、さまざまな方からのアドバイス・意見を参考にしながら試行錯誤を重ねた。また、各学部教授会に説明にも行った。

 「自立と体験1」で明星大学の教育を変えられるという情熱が実を結び、ついに2010年4月に授業がスタートした。初回の授業の評判は学生・教員ともに好評であった。当初授業の実施に反対していた教員も徐々にサポートしてくれるようになり、賛同者も増えていった。ようやく思いが届いた瞬間だったと御厨課長は振り返る。

 今や10年目となる本科目だが、ここに至るまでには絶え間ない改善と検証が繰り返され、随所に創意工夫が垣間見える。もちろん、この改善と検証は今も止まることなく続いている。

 例えば、アクティブラーニングの授業では、ポストイットやタイマーなど多くの資材物品が必要になる。これらの備品は明星教育センターが全クラス分を用意し、SAがそれを各クラスに持参する。役割を細分化することで,担当教員は授業に専念できる。

 また、この授業はクラス数が70クラスと多い。そのため、全ての授業が同じ方向性、品質になるように、共通のポートフォリオや教案を用いている。さらに明星教育センターの教員が分担して、各クラスの担当教員に「今、どうですか?」とメールを送るなど密にコミュニケーションを取っている。

 毎回の授業後には、担当教員を集めてランチミーティングを開催しており、各教員の悩みや課題、気付きをシェアできる時間になっている。その意見はニュースレターという形で、学内の全教員に配信される。10年と長く続くことで無意識に起こる「マンネリ」も、このランチミーティングで気付きや課題を可視化することで打破でき、さらに発展させることができる。

文化を作る「屋台骨」的な存在に

 「自立と体験1」の授業が始まってから、学内の雰囲気は変わった。 最も大きな変化は、学内での「学生・教員の交流が増えたこと」だ。本授業では、意見の違う学生とともに、考え、話す機会が多くある。話を聞く、質問する、相手の良いところをほめることもワークとして本授業内に盛り込んでいるそうだ。この授業を通して、知らない人とコミュニケーションすることに抵抗がなくなった学生は多い。また、多様な意見をプラスと捉える学生が増えてきていると御厨課長は語る。 もちろん、これは学生だけでなく、教員側も同じである。学生と同じく、学部の垣根を超えることで、キャンパス内の学生との距離が近づいた。これらの変化を通して、大学全体の雰囲気は以前よりも賑やかになった。授業後にサークルに参加する学生、空き時間にラウンジなどで学生同士が話す光景が多く見られるようになった。

 「自立と体験1」の授業を通して、学生たちには、自分で主体的に考え、動くということが浸透しているように感じると、鈴木先生は振り返る。学生に実施した授業後アンケートの「役割を分担するのではなく、自分ができることを見つけて、みんなが主体的に行動することが大切」という言葉がまさにそれを表している。

 「自立と体験1」は、明星大学の文化を作る「屋台骨」として、社会や時代に合わせてこれからもアップデートし続ける。