教員を目指す学生の駆け込み寺 —教職センター相談員—

教員を目指す学生の駆け込み寺

教職センター相談員

2019/09/03 公開

明星大学

 明星大学に「教職センター」という施設があるのをご存じだろうか。教職センターは、明星大学で教師を目指す在学生であれば誰でも無料で利用できる施設で、まだ利用したことがない在学生もいるかもしれない。2018年からは、教職を目指す1年生全員を対象に「1年生面談」を実施。入学してすぐ学生の進路相談に乗るなど、サポートも手厚い。今回は、「1年生面談」を務める相談員の岩木晃範先生に教職センターでのサポート体制や「1年生面談」の取り組みについて話をうかがった。

教職センターの取り組み

 岩木晃範先生は、35年に渡る小学校教員、校長職、また教育委員会指導室長としての経験をもとに、明星大学で教職指導専門の教員として教職課程の授業や教員採用試験に向けての指導を10年ほど担当。その後相談員に。岩木先生のように学校現場、大学現場など、数十年ほど教育の第一線で活躍した相談員が2019年9月現在で8名在籍し、教員を目指す学生をサポートし、学生の悩みに耳を傾けている。

 明星大学は、教師を志す学生にとっては、4年間切れ目のない指導・サポートを受けられる場所であるといえる。2018年から始まった「1年生面談」に加え、2年生の「教育インターンシップ」、3年生の「介護等体験」・「論作文・面接試験等対策講座」、4年生の「教育実習」・「教採試験二次対策」などがその中核である。

 「介護等体験」の事前指導として行われるレポート課題の添削を行うのも相談員の業務の一つ。一人一人のレポートに目を通し、評価や添削を加え、そこから面談指導、進路指導につながることもある。 2000名規模の教職課程履修者を抱える明星大学だが、それでも一人一人に寄り添った、「手塩にかける教育」を実現できているのは、こうした相談員はじめ教職指導専門教員の尽力による。

 その他「日本語検定対策講座」「教育観を深める講座」等が学年に応じて開設され、学生のキャリアをゼロから描き、具体的な試験対策まで、相談員、教員、事務局が一丸となって作り上げる。

気軽にフラッと立ち寄れる「教員を目指す学生の駆け込み寺」でありたい

 気軽に立ち寄れる存在になるためには、とにかく最初の1年生面談で「相談してよかった」という印象を残すことが大切だ。

 学生の不安や悩みに耳を傾け、受け止めることが重要だ。そのためには日々学生がどんなことに興味を持ち、どんなことに悩んでいるのか、学生の間で流行になっていることや話題も常に取り入れているそうだ。

 こちらの意見を一方的に押し付けるのではなく、前向きな姿勢や取り組みがみえてくるように自覚・気づきを与えることが相談員の役割である。 ただし、教師の面白さや魅力、人としてのあり方など、伝えるべきことはしっかりと伝える。例えば、学生が敬遠しがちな経済や政治という話題についても、学生に興味をもってもらうような働きかけが重要だ。そういう意味では相談員と教師は似たような存在であると岩木先生は語る。

 さらに面談が終わった後、教職センターの使い方やこんな対策講座が開催されているなど、その場で学生に使い方をレクチャーしている。

教師の前に人として「あたりまえ」のことを伝える

 教師を目指す学生たちに必ず伝えている考え方や価値観があるという。 一つ目が、取材の端々でもよく耳にした「主体的な学び」。主体的な学びとは、自ら関心のあることに対して探求すること。もちろん、勉学に限らず、音楽や趣味についてでも良いが、まずは今の学部・学科・専攻のどこに関心があるのかを考えてもらい、そしてそれを主体的に追求し、学びの楽しさや喜びを知ってもらう。

 二つ目が、人の多様性を受容する力。教師になればさまざまのタイプの子ども、保護者と日々接することになる。その人たちをいかに深く理解し、信頼されるかがカギだ。そのためには学生時代にいろいろな人と接する経験が重要だ。

 三つ目が、チームで動くこと。学校や会社で働くということは、もちろん一人ではなくみんなで働くということ。チームで動けば、意見が食い違ったりぶつかることもある。そこをどうすり合わせていくか、お互いの個性を受け入れ、強みを発揮していくか。そこを学生のうちから経験することが大切だ。

 教師になる上で基礎学力、専門的な教養は必要だ。しかし、採用試験に合格することがゴールではない。そもそも、学生たちは教師の具体的な仕事のイメージができていないことが多い。学生から過去のエピソードを掘り下げていく中で、部活での出来事、学生間のトラブルなど実は気づかないところで教師がサポートしていたり、寄り添っていることを伝えているそうだ。そのような過去のことを思い出してもらうことで、教師の仕事の本質について、気づきを与えることができる。

 学生時代から、要領よく過ごすのではなく、もっと学生の本分である学業を楽しみ、真摯に努力をすることの大切さを伝えている。

 これらの教えは、まさに教師を目指すという部分だけにとどまらず、「人として」生きるときに欠かせない資質、「あたりまえ」のことを語っている言葉だと感じた。

情報に惑わされない。「自分の頭で考える力」をつけてもらいたい

 近年、メディアでは教師や先生という仕事について、長時間労働、モンスターペアレンツなど、大変というイメージで語られることも少なくない。こういった情報をうのみにし、教師になることに不安を抱えている学生が多いそうだ。

 岩木先生は今の学生が「ネットなどの情報を鵜呑みにする傾向にある」と感じているそうだ。以前、介護等体験に関するレポートをチェックすることがあった。ちょうどその頃に「教育、福祉は正反対だ」という情報がネットに出回り、提出されたレポートはやはりそれと同じような論調のものが多かったそうだ。

 こういった情報に学生が惑わされず本質を見てもらうためには、具体例を交えながら教師という仕事の素晴らしさを丁寧に相談の中で伝えていき、イメージしてもらうこと。教師という仕事を通して得られる喜びを、また学校の仕事は決して一人ではなくいろんな人と支え合って行われており、いつでも人に頼っていいということを伝えている。面談を通し学生が自分への自信を取り戻し、自身の夢の実現に向け積極的にチャレンジする気持ちを持ってほしいと願っている。